『寝ないと太るって本当?』
「私たちは1日にどれくらい眠れば十分なのか。」
「眠気を感じなければ、睡眠は足りているのか。」
「睡眠時間が少なくても不調を感じなければ、健康上は問題ないのか。」
しかし、アメリカ人の睡眠時間は昔より減っている。
これは、19世紀に比べて約2時間、50年前と比べて1時間少ない。
10年ほど前の01年と比べても、約15〜25分も減っている。
睡眠不足がいかに大きな弊害をもたらすか、私たちはあまり敏感に感じ取れないらしい。
ペンシルベニア大学の研究チームの実験では、2週間にわたって被験者の睡眠を1日6時間未満に制限した。
ところが被験者たちは、以前に比べてそれほど強い眠気を感じることはなく、自分が比較的正常に活動できていると思っていた。
これはあくまでも自己判断でしかない。
きちんとしたテストの結果を見ると、2週間の調査期間中、被験者の認知能力と反応速度はどんどん落ちていった。
調査期間の最後には、48時間起き続けている人と同程度までテストの成績が低下した。
弊害はこれだけにとどまらないようだ。
シカゴ大学の研究チームによると、睡眠が不足すると、ある種のホルモンの分泌状況が変調を来す。
その結果、食欲が高まり、食後の満腹感を感じづらくなり、糖分の摂取に対する体の反応が変わる。
要するに、肥満と糖尿病のリスクが高まるのだ。
この後に行われた数々の疫学的研究でも、同様の結果が得られている。
なかでも見逃せないのが子供の睡眠不足と肥満の関係だ。
ケース・ウェスタン・リザーブ大学とハーバード大学医学大学院の報告によれば、子供を対象にした31件の研究でも、大人の場合と同様の結論が見いだされている。
高校在籍年齢の子供を対象にしたケース・ウェスタン・リザーブ大学医学大学院のスーザン・レッドラインらの研究はその一例だ。
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1日に8時間以上寝ている子供に比べると、睡眠時間が6〜7時間の子供は肥満になる確率が2.5倍以上に達した。
睡眠時間が短いほど肥満のリスクが高まる傾向がはっきり見て取れたのだ。
高血圧や心臓病のリスクの増加と睡眠不足を関連付ける研究結果も多数発表されている。
もっとも、悪い話ばかりではない。
これらの弊害が表れても、適切な量の睡眠を取れば問題を解消できる。
先に紹介したシカゴ大学の研究によると、被験者に2日続けて10時間の睡眠を取らせると、ホルモンの値が正常値に戻り、空腹感と食欲の強さを示す数値が25%近く低下したという。
照明器具、コンピューターなどの電子機器、さまざまな娯楽など、私たちは24時間、無数の誘惑に囲まれている。
肥満や糖尿病、高血圧、心臓病などの病気は、発症した後で治療するより、予防するほうがよっぽど簡単だ。
(筆者はハーバード大学医学大学院の睡眠専門医。ボストンの睡眠健康センターの最高医療責任者も務める)